水槽のようなさびしい部屋から
わたしは逃げ出すように家を出た
駅前の雑踏にまぎれて歩く
街には足音と人声の渦巻があった
無数の色があり音があり目があった
しかしそのどれもが
わたしを素通りしていくのだった
物売りの声もスピーカーの流行歌も
わたしを萎えさせ縮ませた
黄色い笑い声とすれちがうたび
わたしは透明になっていくようだった
喧しい大海の渦潮は
水槽よりもいっそうさびしかった
わたしは落胆して踵を返した
小さなくすんだ銀色の鍵を
鍵穴にざくりと差し込んで
我が家の戸をあけた
消し忘れた電灯が
おかえりと言うように
かすかに点滅して
そしていつものさびしい水槽に
もどった