小さいころは病弱で、しばしば体調を崩しては、病院へ点滴を打ちに連れて行かれました。点滴を打つと元気が戻るので、その帰りには、滋養を付けるという目的で、ファーストフード店へ寄ってフライドチキンを買って帰るのが習慣でした。点滴の針を刺すのも慣れっこになっていました。

 あるとき点滴の処置を受けるために病院のベッドで待っていると、太ったおばさんの看護婦が若い看護婦を連れて現れました。そうして若い看護婦を置いておばさんは去っていきました。若い看護婦は、手つきのたどたどしさや、話し方のぎこちなさから、新人であることがわかりました。
 彼女は、私の細い腕をさすりながら血管を探しはじめます。けれど、これがなかなか見つからない。目を三角にして私の腕と睨めっこしています。腕をさし出すたびにきっと、ベテランにも「血管が細いね」とつぶやかせる私の血脈。新人看護師には難易度の高い手技だったことでしょう。
 ようやく見当を付けたらしく彼女はその初々しい針を刺しました。ところは彼女は、首をかしげると、針を抜いてしまいました。場所が違ったようです。また腕をさすって探す。刺す。やっぱり抜く。また刺す。でも抜く。ずいぶん手こずっています。いくら慣れっことはいえ、そんなにズブズブ刺されたら心細いことありません。

 時間が長く感じました。ようやく成功したのは、はっきり覚えていないけれど、五本目だったか、六本目だったか、あるいはそれ以上だったか。幾度も針を刺されて腕は青くなっていました。そんな目に会ったのは後にも先にもその時だけでした。
 今自分の腕を眺めてみても注射の痕など残っていないし、右腕だったか左腕だったかも忘れてしまいました。ただあの時の若い看護婦さんの泣きそうな顔が、心に痕を残しているばかりです。