マサヤ君の宝箱
小学校のクラスメイトにマサヤ君という男の子がいました。マサヤ君はほっそりとした長身で、物腰のやわらかなおとなしい子でした。さらさらのおかっぱ頭にビー玉のような瞳が印象的で、たまに口を開くとその長身から、風にさゆらぐ葉擦れのようなやさしい声音が降ってきました。体育の授業では、長い腕をひらめかせ、細い脚を内股に折って、集団のあとをペタペタ追いかけて走りました。
マサヤ君とはあまり親しくなかったけれど、一度だけ家へ遊びに行ったことがあります。そのとき私たち男子の間ではカード集めが流行っていました。カードはおもちゃ屋や駄菓子屋の前に置いてあるガチャガチャで買えました。いろいろな絵柄が印刷されたカードは各々に優劣や希少性があって、その所有者に格差を生み、優良カードの持ち主を権威付けました。私たちは競ってガチャガチャのハンドルを回しました。あるときマサヤ君もカードを集めていることを知って、彼と意気投合したのです。そしてカードを見せてもらいに遊びに行ったのでした。
マサヤ君は団地に住んでいました。部屋へお邪魔をすると、家具や調度品が西洋趣味で占められていて独特な雰囲気でした。エプロン姿のお母さんは品のあるご婦人で近寄りがたく感じました。他の友達の家にはないお上品な家庭環境になんとなく落ち着かなかったけれど、マサヤ君の少し変わった人格も腑に落ちました。
マサヤ君は自分の部屋からカードケースを持ってきて、リビングのふかふかした絨毯の上へ置きました。ケースは小さなトランクの形をしていました。表面はベロアのような起毛素材で白と黒のチェック柄でした。銀色の留め具をパチン、パチンとはね上げて蓋を開くと中は鮮やかな緋毛氈。そこへカードがきれいに束ねて仕舞ってありました。
お洒落なケースにも驚いたけれど、カードの多さにも驚きました。私より何倍も多い枚数を所有していました。クラスメイトともほとんど交際のない彼が、ひとり熱心にこれだけのカードを収集していたことに、私は言い方のない感覚を抱きました。
私も持参した粗末なカードケースを置いて、お互いのカードを見せっこしたり、交換したりして遊びました。
マサヤ君は自分の家でもささやくように静かに話しました。今でもあの澄んだやさしい声を思い出すと、おっとりとした気持ちになります。