蓑虫
小学生のとき理科の授業で蓑虫の観察というものをやりました。先生が蓑虫のたくさん入った箱を持って教室にやってきました。そして一人一匹ずつ配って教室に行きわたらせました。私の目の前にも一匹の蓑をかぶった小さな幼虫が、机の上に置かれました。蓑は木の枝や枯葉の破片を寄せ集めて器用に紡錘形に成形してありました。
先生に言われて皆はお道具箱からハサミを取り出しました。これから蓑を切り破って、中の住人を引っ立てるのです。
私は紡錘形のどこをどう切ったらよいか迷いました。どこをどう切っても住人を巻き添えにしそうな、無駄のない建築物でした。
蓑の先端をほんのわずかばかりハサミでつまんでみました。蓑は弾力があり丈夫で、子供の丸いハサミでは容易に切れませんでした。
次はもう少し幅の広い箇所へ刃を移して挟んでみました。しかしまたもや蓑の弾力に弾かれました。もう中の住人のことなど考える余裕もなくなり、手ごわい蓑と無闇に格闘しているうちに、その先端がようやく切断されました。それと同時に、断面から黒い液体がどろりと垂れてきました。
住人に刃の入ったことは明白でした。気持ちよく眠っていた住人は、突然闇を切り裂いて襲った凶刃に逃げる術もなく、未来を奪われたのです。一瞬の出来事でした。
私はどす黒い液体を見てすっかり萎えてしまいました。それ以上蓑を破る気力は失せてしまいました。
周りを見回すと皆は澄ました顔をして解体作業に励んでいます。失敗をしているのは自分だけのようでした。どうして自分だけこんなヘマをするのだろうと、暗い気持ちになりました。
蓑からこぼれた液体は机の上に黒い小さな水溜まりを作っていました。それはいずれ白い羽になって世界を羽ばたくはずだった原液でありました。