「あの世ってあるとおもう?」
月のない晩の小路を歩きながら、ふと女が口をひらいた。
「死んだら無になるんだよ」
男は言った。
それきり黙って歩いた。
やがて、
「あの世は、あるんだよ」
女は独りごとのように呟いた。

男の部屋には今、いつか女がくれた鉢植えがある。
ぬれた土にムラサキツユクサが咲いている。
花言葉は、Esteem not love.
尊敬しているが恋愛ではない。

男はこの十年、水遣りをかかしたことはない。
まるで、女がまだ生きているかのように。