く る く る
高田は数学のテストの採点を半分まで終えると、顔を上げて遠くを見た。ずっと手元を見ていた眼はすぐには焦点が合わなかった。職員室の窓からは誰もいない校庭に木の葉が散り散りに転がっていくのが見えた。
高田はふと桜の木の傍らにくるくると回転しているものが目に入った。なぜあそこにあんなものがあるのか、高田は不思議におもった。
次の日、試験監督の教室の窓から昨日の桜の木をのぞくと、やはりそれはくるくると回転していた。しばらく見ていたが、ただ小気味よく回っているだけでなんの変化もない。心なしか少し位置が違うようにも思われた。ひとりでに位置が動くものだろうかと、高田は不思議になった。
あくる日、高田は同僚の教員にくるくる回るものの目撃談を話してみた。同僚は「不思議ですねぇ。」と言ったきり片付かない顔をしてどこかへ行ってしまった。高田は校庭の見える窓まで行ってくるくるをたしかめた。まだ回っていた。窓の前で。
夕刻になると高田は仕事を仕舞って車で校門を出た。しばらく走っているとバックミラーにちらつくものが見えた。後部座席に例のものがくるくる回転していた。こんな狭い空間でどうやってぶつからずに回っているのか高田は不可解に感じた。家について助手席の手提げ鞄をひろってドアを閉めると、まだ車のなかで回っていた。
午後七時に夕飯を食った。妻と二人の子供としずかな食卓を囲んだ。居間のテレビがつけっぱなしで野球中継をしている。高田はちらちらと遠目に野球を見ながら箸を運んだ。
誰かがホームランを打ったらしい。テレビの中がにわかに騒々しくなった。ビールのグラスを置いてテレビを見遣ると、居間でまたあれがくるくるしていた。
「おい。」
妻がびっくりしたような顔で高田を見た。
「テレビ消してくれ。」
妻にうながされた子供が走っていってテレビを消した。ちょうど走者がチームメイトとハイタッチをしているところだった。
高田は席を立って風呂に入った。
その晩、高田はベッドに入って目をつぶると、天井がぐるぐる回るような目眩を覚えた。が、すぐにそれは治まって寝入った。
夢を見た。自分は校庭の桜の木の下に立っている。なんでも七日七晩こうして同じ場所に立っているらしい。校舎のほうを見ると、職員室の窓に見知らぬ女の顔が見えた。女がこちらを見た。自分は大声で呼んだ。いくら呼んでも声が届かないので、こんどは必死に手を振った。女は退屈そうな顔をしてぼんやりこちらを見ているだけだった。気付いてもらえないと大変なことになるので自分は我を忘れて夢中に腕を振り回した。
一週間後、高田の後任には実習を終えたばかりの若い女性教員が着任した。放課後の誰もいない職員室で、彼女は慣れない採点作業をしていた。生徒の雑な字を解読するときは、握っている赤ペンを
くるくるっと器用に回してい
る。彼女の癖だった。採点はあと数枚でようや
く終わろうとしてい
る。
が、作業に疲れた彼女は、あ
くびをしながら、ぼんやりと窓外の桜の木を眺めてい
る