突然E子さんから手紙が届いた。E子さんは中学の同級生だ。卒業してから約十年、思い出すこともなかった。
 E子さんは卒業間近まで隣の席だった。互いに恥ずかしがり屋だった。けれどE子さんと仲のいいおてんばな女子が混ざることで、私たちは仲良くなった。下膨れのした色の白い子だった。

 手紙は便箋三、四枚に近況報告が綴られていた。イラストも交えた軽快なものだった。その文字は私のなかで、かつてのE子さんの澄んだ声で再生された。しかし彼女からの手紙は、それが最初で最後だった。

 最初の手紙のなかにメールアドレスが書いてあった。それで私とE子さんはメールで何通かの会話をした。その短い会話のなかで、私たちは久闊を叙し、同級会の発案をしあった。そうして何通目かのメールを送ったのち、はたと返信が途絶えたのである。

 私はメールの送信事故を想定して再送してみたが、いつまで経っても返信はかえってこなかった。その年の歳末には年賀状を送ってみた。やはり返事はなかった。
 私は彼女のメールを何度も読み返した。私の送ったメールも見返した。しかしヒントは見つからなかった。
 E子さんとの再会はそのまま尻切れトンボに立ち消えてしまった。

 しばらく経ったある日のこと。私が車を走らせていると、はしなくもE子さんの住んでいる近くを通過した。そのとき私は、引き寄せられるようにハンドルを切りブレーキを踏んだ。胸につかえていたわだかまりを、せめて彼女の家を遠くから目に焼き付けて、それで心に区切りを付けようと思ったのである。

 ひと気のない静かな住宅街だった。近くを川が流れている。私は車を降りて堤に沿って歩いた。E子さんの住んでいる場所はあっけなく見つかった。ところが目の前に現れたのは、金網に囲まれた更地だった。
 E子さんはアパートに家族と住んでいたようだ。が、更地にはただ雑草が丈高く生い茂っているだけだった。金網に管理会社の小さな看板が掛けてある。私はしばし看板の前にたたずみ、読むともなしにその文字を眺めていた。

 手紙の中のE子さんは、むかし教室ではしゃいでいたときのように、明るく活き活きとした印象を受けた。しかし彼女はその手紙をどんな気持ちで書いていたのだろうか。私はのん気にうわべの文字しか読んでいなかった。届かなかったのは、私から彼女へのおしゃべりではなく、彼女から私への沈黙だったのかもしれない。

 E子さんの手紙は長いあいだ保管していた。彼女は今もどこかで、今日という日を笑顔で暮らしているだろう。隣の席で笑っていたE子はいない。だから私は手紙を捨ててしまった。