朝番
閉め切った店内に AM 7:00 の時報がぶっきらぼうに響いた。それを合図に入口の脇にあるボタンを押す。シャッターが百年の眠りから覚めるようにギクシャクと上がっていく。
手始めに、店先へいろいろな掲示物や立看板を、決められた位置に設置する。ひらきかけたシャッターを見つめながらその心の準備をして待っている。と、従業員の女の子が小さく叫んだ。女の子は助けを求めるようにこちらを見る。入口に現れたのは、大きなボストンバッグのような物体だった。近づいて見てみると、人間だった。冷たいタイル張りに、黒い背広の男が横たわっているのである。女の子は店の奥へ逃れた。
男は泥酔しているようだった。
「お兄さん、お兄さん、朝ですよ」と、肩を揺らしてみる。
男の眉間に皺が寄って、小さなうめき声が出た。そうして開かない目を開けて辺りを見まわす。
「お店、開けるんで」
そう言うと、男はむっくりと起き上がり、おぼつかない足取りで、夢の跡を辿りながら去っていった。男の短い夜はおわり、店の長い一日がはじまる。 電光掲示板のコンセントを壁にさす。表示板はしばし目覚めの混沌を呈してから、やがていつも通りの宣伝文句を、いつも通りの規則で点滅させはじめる。通りにはまだ人っ子一人いない。
店内に戻って BGM を点けると、エリック・クラプトンの Tears in Heaven が流れはじめた。雑用が山のように待っている。