Nさんから個展の案内状が届いた。Nさんは絵を描いている素人作家で、齢は知らない。少し遠かったが、行くことに決めた。
 地図で道のりをたしかめると、最寄りの駅からずいぶん離れていた。会場は南の方角にあり、近くに細い川が流れている。私はそれだけを記憶して家を出た。
 どこをどう歩いたか記憶にない。駅を出たらとにかく南へ向かった。そうしてどういう訳か、着いた。イメージどおり、マッチ箱のようなこじんまりとしたそのギャラリーは川のほとりに建っていた。
 着いたときには夕方近くになっていた。会場に客はいなかった。作家とその友人のお手伝いが、二人で片づけをしていた。
 作家は微笑んで私を迎え入れた。どうやって来たのか聞かれたので正直に話すと、二人は驚いていた。
 壁に点々と小さな絵がかかっている。Nさんの人柄そのままのあたたかな絵である。なるべくゆっくりたどっても、すぐに壁の端まで来た。
 作家がソファを勧めてくれたのでようやく腰を下ろした。そこで作家と私はひとしきり話をした。
 作家が「差し入れのケーキを食べましょう」と言った。友人がコーヒーカップを三つ運んできた。三人で白い小さな箱からそれぞれ好きなケーキをとってたべた。窓の外はすでにとっぷりと暮れていた。
 帰りは友人の車で駅まで送ってもらった。
 その後は作家から年賀状や暑中見舞いが律儀に届くようになった。葉書には彼女の素朴で親しみのある絵が刷られていた。あるときから差出人の住所が東京になった。しばらくすると苗字が変わっていた。しだいに途切れがちになり、やがてはたりと来なくなった。