小さなブティックがぽつんとあった。煤けて古ぼけた店である。吊るされた洋服が鬱蒼と折り重ねって入口を塞いでいた。
 入口横のガラス張りにはいつも同じ服が同じ形をして飾ってあった。野暮ったい時代錯誤の意匠である。「冷やかし大歓迎」と書いた看板を掲げていた。薄暗い軒先でその書体だけが媚びを売っていた。
 ときおり白髪の老人が店の前を掃いていた。彫刻刀で彫ったような険しい皺を尖った顔に刻み付けて、いつも不機嫌そうにしていた。
 店に客の出入りする影は見たことがない。しかし店は毎日律儀に灯をともしていた。春になると Spring Sale と印刷されたのぼりを張った。秋には Autumn Sale を垂らした。30%OFFという貼り紙をショーケースへ貼りつけていることもある。
 閉店セール 在庫限り
 そんな旗を掲げたときはいよいよ店仕舞いかと思った。が、そのうち Summer Sale がはじまった。依然として人は寄り付かない。
 店主は元よりそろばん勘定などないかのように、意のままに手を加え、工夫に変化を与えて、それで満足しているようだった。
 あるとき小学生が何人かで連れ立って、威勢よく跳ねながら店の前を過ぎた。そのとき、老人の掃き集めている落ち葉が舞った。老人は爬虫類のような目で子供を睨みつけ、何ごとか怒鳴った。小学生たちは知らぬふりをしてランドセルを躍らせながら走っていった。
 夜に通りがかると、ぴしゃりと閉めきった店のシャッターへ、消し忘れた軒先のスポットライトが差していることもあった。