ある日、母がパズルを買ってきた。私がまだ小さい頃のことだ。箱をあけてみると中にはさまざまな形の欠片がたくさん入っていた。接着剤で欠片を組み合わせる立体パズルだった。母が選んできたのは、小さな壺のパズルだった。私と母は静かにそれを組み立てた。やがて、つぎはぎだらけの小さな壺が完成した。

 その夜、隣の居間の騒々しさに私は布団の中で目が覚めた。父と母が激しく言い争っていた。何かが割れる音もした。珍しいことではなかった。そんなとき私は布団を頭までかぶって寝ているふりをした。そうして声を噛み殺しながら泣いた。

 翌日、きのうの壺が元どおりバラバラになって箱へ収められていた。元よりも欠片は細かく、形も複雑で、難易度が上がっていた。私と母はまた黙ってそれを組み立てた。
 ひびだらけの小さな壺はその日のうちに完成したが、母が父と訣別するにはそれから三十年近い月日を要した。母は長い歳月を子供たちのために目をつぶり家庭人に徹した。

 現在、母は妹夫婦と暮らしている。孫も生まれて四人で賑やかな生活を送っている。やんちゃな孫にはずいぶん手を焼いているようだ。しかし可愛い孫と、気立ての優しい娘婿に恵まれて、それなりの幸せを噛み締めているのではないだろうか。そのささやかな幸福を接着剤にして、老いた母はバラバラになったじぶんの心を少しずつ組み立てているように見える。