昨晩は早めに床へ入った。枕元にはカンテラと文庫本が置いてある。いつもの習慣で布団をかぶって本をひらいた。古本屋の薄暗がりで一冊だけ逆さまに収まっていた本だった。黴の匂いがした。カンテラの曖昧な光に、かすれた旧字体がゆらめいている。
 いつになく多くの頁をめくった。そうしていつしか眠った。
 目が覚めた。夜のままだった。夢を見ていたが、内容を思い出すことはできなかった。鼓動が早くなっていた。本は枕元から転げ落ちている。カンテラは倒れて消えていた。
 ふたたび寝ようとするけれども目が冴えて寝つけない。しばらくの間、瞼をとじたり、目をあけたりしていた。取り留めのない想念が行き交っている。それが頭の上の暗がりか、頭の中なのか、わからなかった。無闇に身体の向きを変えた。布団の擦れる音が妙に大きく響いた。
 遠くで夜明けのさざめきがしだす。眠ろうとする努力をやめ、カンテラを灯した。そうして本をひらいた。光の眩しさに文字が潰れる。ようよう目が慣れると、続きを拾った。読みはじめたら途端に瞼が重くなり、そうしてまた眠った。
 アラームが鳴って目があくと、朝になっていた。カーテンの隙間から青空が覗いた。顔が陶器のように冷たい。
 布団から這い出して洗面所に立った。ひどい寝ぐせだった。はねた髪の毛を無暗にいじりながら歯を磨いた。毛がはらはらと落ちる。顔を上げると鏡の中で知らない男が歯ブラシをくわえていた。